紅色に染まる頃
「本堂さん。父は主に財団法人の活動に力を入れておりまして、経営に関しては大した力はありません。今も、ご覧の通り固まったままですしね」

クスッと笑ってから、紘は先を続けた。

「率直に申し上げると、私はあなたを助けたいと思っています。力になれるのなら協力したい」
「それでは?!」

期待に目を輝かせて伊織が顔を上げた。
だが、紘は難しい顔で伊織を見据える。

「だからと言って簡単に、はい喜んで、とは言えません。もし我々の力不足で上手くいかなかったら?そちらのお名前に傷が付きますよ」
「それはもちろん、覚悟の上です」
「では、我々の名前に傷が付くことに対しては?」

伊織がグッと唇を噛み締める。

「本堂さん。うちは御社のようにネームバリューはありません。経済を動かすような大きな力もありません。ですが、古くから伝わる大切な日本の伝統や文化を守ってきた自負はあります」
「もちろんです。由緒正しい小笠原様のお家柄は、我々日本人の誇りです」
「その小笠原家が畑違いの分野に手を出し、失敗して評価を落とす事態になれば?そのリスクを背負ってまで、私達はあなた方と手を組む必要があるでしょうか」

淡々と、それでいて厳しい言葉をかける紘に、伊織は再び頭を下げる。

「私は必ずこの計画を成功させてみせます。小笠原様の視点から古き良き日本の素晴らしさをお伝え頂き、一人でも多くの方に改めてこの国の魅力を感じてもらえるような、今までにないホテルを作り上げていきます。どうか、お力を貸して頂けませんでしょうか?」

頭を下げ続ける伊織に、紘はじっと押し黙る。

やがて隣に座る美紅に視線を移した。
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