紅色に染まる頃
「まあ、昼間はまた違った雰囲気ですね。陽射しが明るくて緑も映えます。それに空気がとても新鮮」
マンションに着くと、美紅は深呼吸してから庭を歩いて回る。
「あら、噴水やベンチもあるのですね」
「ああ。所々にこういった広場がある。あそこに見える小高い丘は、季節が来ればバラが咲き誇るよ」
「なんて素敵なのかしら」
ひと通り見て回ると、美紅は伊織に部屋に案内して欲しいと頼んだ。
「え、部屋って、俺の部屋?」
「はい。構いませんか?」
「あ、うん。いいけど」
自分の部屋に女性を招いたことなどない。
(大丈夫かな。変なもの置いてなかったっけ?)
最近は屋敷に帰らずほぼ毎日ここで寝泊まりしており、洗濯や掃除もあまり出来ていない。
そわそわしながら、伊織は美紅を部屋に案内した。
「ど、どうぞ」
「失礼致します」
美紅は頭を下げてから部屋に足を踏み入れる。
「まあ!なんて天井が高いのかしら」
「メゾネットだからね。リビングは2階までの高さがある」
「お庭もこんなに大きく臨めるのですね。それにとても静か」
「ああ。隣の部屋とは離れているから」
そう言いながら、伊織はリビング一面の窓を全部開けた。
「どうぞ。ここからはウッドデッキになっているんだ」
美紅は感嘆のため息をつきながら、ウッドデッキの端にある手すりまで進んだ。
「本当になんて素晴らしいのかしら。まるで別の世界にいるみたい。心まで開放的になります」
静けさの中に鳥のさえずりまで聞こえてきて、美紅は思わず目を閉じる。
「ここが東京都内だなんて思えませんわ。贅沢で非日常的で…。時間を忘れていつまでもここにいたくなります」
「良かったらそのベンチに座って。今コーヒーを淹れるよ」
伊織はマグカップにミルク多めのコーヒーを淹れると、ブランケットと一緒に美紅に手渡す。
「どうぞ。冷えないように膝に掛けて」
「はい。ありがとうございます」
美紅はカップで両手を温めながら、ゆっくりとコーヒーを味わう。
そしてまた、緑の森に目をやった。
「時間の流れがここだけ違うように感じますわ」
「ああ、確かに。俺もここで目が覚めると、仕事に行かなきゃいけないのにまったりしてしまって、いつも遅刻しそうになる。で、須賀に電話で呼び出されるんだ。早く出て来いって」
「まあ、ふふふ」
おかしそうに笑った後、美紅はふと真顔になった。
しばらくじっと何かを考え込む。
「あの、どうかした?」
「本堂様。わたくし、お客様にもこんな空間をご提供出来たらと思います。設備ではなく時間の贅沢さ。身体だけでなく心も癒やされる場所。お客様に、来て良かった、いつまでもここにいたいと思って頂けるような、どこかそんな…」
そこまで言って言葉を止めた美紅は、急にパッと表情を変えた。
「そうだ!京都へ行こう!」
「…は?」
思わずポカンと美紅の顔を見ながら、これはスイッチが入ったな、と伊織はどこか冷静に考えていた。
マンションに着くと、美紅は深呼吸してから庭を歩いて回る。
「あら、噴水やベンチもあるのですね」
「ああ。所々にこういった広場がある。あそこに見える小高い丘は、季節が来ればバラが咲き誇るよ」
「なんて素敵なのかしら」
ひと通り見て回ると、美紅は伊織に部屋に案内して欲しいと頼んだ。
「え、部屋って、俺の部屋?」
「はい。構いませんか?」
「あ、うん。いいけど」
自分の部屋に女性を招いたことなどない。
(大丈夫かな。変なもの置いてなかったっけ?)
最近は屋敷に帰らずほぼ毎日ここで寝泊まりしており、洗濯や掃除もあまり出来ていない。
そわそわしながら、伊織は美紅を部屋に案内した。
「ど、どうぞ」
「失礼致します」
美紅は頭を下げてから部屋に足を踏み入れる。
「まあ!なんて天井が高いのかしら」
「メゾネットだからね。リビングは2階までの高さがある」
「お庭もこんなに大きく臨めるのですね。それにとても静か」
「ああ。隣の部屋とは離れているから」
そう言いながら、伊織はリビング一面の窓を全部開けた。
「どうぞ。ここからはウッドデッキになっているんだ」
美紅は感嘆のため息をつきながら、ウッドデッキの端にある手すりまで進んだ。
「本当になんて素晴らしいのかしら。まるで別の世界にいるみたい。心まで開放的になります」
静けさの中に鳥のさえずりまで聞こえてきて、美紅は思わず目を閉じる。
「ここが東京都内だなんて思えませんわ。贅沢で非日常的で…。時間を忘れていつまでもここにいたくなります」
「良かったらそのベンチに座って。今コーヒーを淹れるよ」
伊織はマグカップにミルク多めのコーヒーを淹れると、ブランケットと一緒に美紅に手渡す。
「どうぞ。冷えないように膝に掛けて」
「はい。ありがとうございます」
美紅はカップで両手を温めながら、ゆっくりとコーヒーを味わう。
そしてまた、緑の森に目をやった。
「時間の流れがここだけ違うように感じますわ」
「ああ、確かに。俺もここで目が覚めると、仕事に行かなきゃいけないのにまったりしてしまって、いつも遅刻しそうになる。で、須賀に電話で呼び出されるんだ。早く出て来いって」
「まあ、ふふふ」
おかしそうに笑った後、美紅はふと真顔になった。
しばらくじっと何かを考え込む。
「あの、どうかした?」
「本堂様。わたくし、お客様にもこんな空間をご提供出来たらと思います。設備ではなく時間の贅沢さ。身体だけでなく心も癒やされる場所。お客様に、来て良かった、いつまでもここにいたいと思って頂けるような、どこかそんな…」
そこまで言って言葉を止めた美紅は、急にパッと表情を変えた。
「そうだ!京都へ行こう!」
「…は?」
思わずポカンと美紅の顔を見ながら、これはスイッチが入ったな、と伊織はどこか冷静に考えていた。