紅色に染まる頃
「あの、本堂様」

しばらくして、美紅が伊織に話しかける。

「ん?何?」
「少しだけ本堂様のマンションに寄らせて頂いても構いませんか?あのマンションの感覚をもう一度確かめたくて」
「ああ、構わないよ。須賀、うちに寄ってくれ」
「かしこまりました」

須賀はゆっくりとハンドルを切って、マンションへと向かう。

到着すると、今日はこのまま帰ってくれていいと須賀に告げて、伊織は美紅をエントランスに促した。

「庭を歩く?それともラウンジに行く?」
「んー、どちらも!」
「あはは!本当に好きなんだな、ここが」
「ええ、大好きな場所です。わあ!クリスマスツリーが!素敵…」

エントランスに入ると、ライトが煌めく大きなツリーが目に飛び込んできた。

「そういえばもうすぐクリスマスでしたね」
「ああ。庭にもあちこちに飾り付けされているよ」
「ええー!早く行きましょう、本堂様」

美紅は思わず伊織の手を引いて庭に向かう。

「まあ!イルミネーションがあちこちに…。森の中がキラキラして妖精が舞っているみたい」
「へえ。ロマンチックだね、女の子って」
「え、まさかそんな」

美紅は思わぬ伊織の言葉に、はにかんでうつむく。

「家族からは、じゃじゃ馬だの男前だの、散々な言われようですわ」
「あはは!それも分かるけど」
「え?何ですって?」
「あ、いや。何でもありません」

美紅にジロリと睨まれて、伊織は慌てて真顔になる。

二人はしばらく肩を並べて森の庭を歩き続けた。

「寒くない?ラウンジから庭を眺めようか」
「そうですわね、それも素敵!」
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