紅色に染まる頃
「申し訳ありませんでした」

美紅は伊織に深々と頭を下げる。

本堂グループが主催したパーティー、しかも相手は大事な取り引き先。

美紅のしたことは、伊織に多大な迷惑をかけることになる。

「違うんです!美紅ちゃんは何も悪くないの。私を助けようとして…」

エレナが割って入るが、美紅はそれを制する。

「いいえ。たとえそうでも、行き過ぎた行動でした。本当に申し訳ありません」

頭を下げ続ける美紅に、伊織は小さくため息をついてから口を開いた。

「頭を上げてください。あなたがしたことは何も間違っていない。悪いのはあちらの方です」
「ですが、大事な取り引き先の方です。本堂様のお仕事にご迷惑をおかけすることになります」
「あのような無礼な人に媚びへつらってまで仕事をする気はありません。こちらから縁を切ります。どうぞご心配なく」

それでも美紅は頭を上げない。
自分があんなことをしなければ、この先も穏便に仕事のつき合いは続いていたはずなのだ。

伊織はまた小さくため息つく。

「あなたが頭を上げてくれないことの方が私にとっては迷惑です。皆の注目を浴びていますからね。まるで私があなたにそうさせているように思われます」

そう言うとようやく美紅は頭を上げた。
だが、表情は暗いままだ。

「紘さん」

伊織は、なぜだか紘に声をかける。

「彼女を私が送って差し上げてもよろしいでしょうか?」

紘はじっと美紅の様子を見てから頷いた。

「はい。妹をよろしくお願いします」
「かしこまりました。必ず無事に送り届けます」

伊織は紘にお辞儀をすると、美紅の背中に手を添えて会場の外へ促した。
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