紅色に染まる頃
「入って」
マンションに着くと、伊織はいつものラウンジに向かう。

美紅をソファに座らせると、温かいココアを淹れた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

ひと口飲んでホッと息をついた美紅は、耐えかねたようにまた伊織に謝罪する。

「本堂様、本当に申し訳ありませんでした。多大なご迷惑をおかけしました。今後のお仕事にも差し障るかもしれません。わたくしのせいで事業がうまく進まなくなれば、いくらお詫びしても足りません。世間知らずのわたくしが、本堂グループのような大きな力のある方々と一緒にお仕事をするなんて、やはり無理があったのかと…」
「君の覚悟って、その程度だったの?」

急に聞こえてきた伊織の冷たい言葉に、美紅はハッとして顔を上げる。

「小笠原家を背負って、精いっぱいやってみせる。必ず成功させると誓ったあの言葉は嘘だったの?」

今まで見たこともない程真剣な眼差しの伊織を、美紅は何も言えずに見つめ返す。

「俺は違う。本堂グループも小笠原家も、そして君の人生も背負って必ずやり遂げてみせる」
「わたくしの、人生も?」
「そうだ。俺の言葉を信じて頷いてくれた君を、決して裏切らない。大きな決断をしてくれた君に、決して後悔はさせない」

伊織の力強い瞳から、美紅は目を逸らせずにいた。

「君がどんなに挫けそうになっても、必ず俺は君を支える。決して見放さない。二人で一緒に成功の喜びを分かち合える日まで、ずっと君のそばにいる」

美紅の目に涙が溢れる。
こんなにも力強く温かく自分を守ってくれる存在に、胸が打ち震えた。

そんな美紅の頭に手を置いて、伊織は美紅の顔を覗き込む。

「何をそんなにしょげてるんだ?君らしくない。無礼な男を軽々とこらしめたんだぞ?武勇伝じゃないか。さすがは小笠原 美紅だな」

いたずらっぽく笑って、美紅の髪をくしゃっと撫でる。

「そんな、武勇伝だなんて」
「かっこいいじゃないか。振り袖姿で男を投げ飛ばすとは。世が世ならば立派な武将だぞ?」
「わ、わたくし、投げ飛ばしてなどおりません!足技ですわ。振り袖で投技は無理です」
「じゃあ、振り袖じゃなかったら?」
「そうですわね、背負投を…」
「ほら、やっぱり」

そう言って伊織はおかしそうに笑う。
つられて美紅も頬を緩めた。
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