紅色に染まる頃
「柔道、習ってたの?」
「ええ、兄を真似て子どもの頃に。でも両親に辞めさせられました」
「どうして?」
「うーん、女の子らしくないからでしょうか?」
「ああ、なるほど。強すぎたんだろうな」

納得したように伊織は頷く。

「代わりにピアノを厳しく習わされました。弾くのは好きなのですが、コンクールに無理矢理出場させられるのが嫌で…」
「あー、あれね。出番の前にトンズラ」
「お、覚えておいででしたか」

美紅は思わず頬を赤らめる。

「あんなに面白い親子喧嘩はそうそうない。忘れられないよ」
「お恥ずかしい…」
「いやでも、トンズラなんて子どもながらあっぱれだよ。本当に君は一本芯が通っている。俺も昔は色々習わされたけど、逆らえずに渋々やってたよ」
「本堂様も習い事を?あ、柔道ですよね。公園での払腰は見事でした」

泥棒を軽々と投げた伊織を思い出す。

「君には及ばないけどね。あと、剣道や日本舞踊、茶道や華道、あ、ピアノも少しやってたよ」
「まあ!そうなのですか?本堂様がピアノを?では何か1曲弾いて頂けませんか?」
「いやいや、君からしたら全く話にならないレベルだよ」
「そんなことはありません。本堂様の演奏を聴いてみたいです」
「えー、余計なことしゃべっちゃったな」

困ったように眉間にしわを寄せるが、美紅の表情が明るくなったのに気づいて、仕方なく頷いた。

「じゃあ、本当に少しだけね」
「はい!」
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