紅色に染まる頃
第十九章 成功と別れ
『時の宿 京都東山』は、プレオープンを経て正式に営業開始となった。

お客様1組ごとに専属のスタッフが付き、お出迎えからお見送りまでを担当する。
館内を案内し、展示や建物についても詳しく説明した。
どんな質問にもお答え出来るよう、スタッフは事前に美紅の祖母から様々な知識を学んでいた。

広い館内にいながらスタッフ同士がスムーズに連絡を取り合えるようインカムでやり取りし、分からない質問や詳しい情報はすぐに他のスタッフに協力を仰ぐ。

お客様に宿での滞在と京都の観光を最大限に楽しんでもらえるよう、担当者がお客様のニーズに合わせて細やかにサービスした。

静かに宿で過ごしたい方へは過剰な声かけはせず、存分に京都を楽しみたい方へはおすすめプランを紹介する。

館内でも楽しめる場所をあちこちに用意した。
着物のレンタルと着付け、茶道や華道、書道の体験は、外国のお客様から好評を得る。
和菓子の練切を作ったり、陶芸のろくろ体験は、日本人カップルやお子様、女性のグループにも人気だった。

和風アクセサリーや工芸品の販売、呉服店の着物の展示なども色々な店が入れ替わりで催された。

料理は地元の農家から仕入れた新鮮な食材を使い、美しい和食器に盛り付けた京懐石を、お部屋で日本庭園を眺めながらじっくりと味わってもらう。

部屋付きの露天風呂は、どのお客様にも喜ばれた。

毎日お客様から頂く感想やお言葉を参考にスタッフ同士で話し合い、改善を重ねながら運営していく。

館内でたくさん写真を撮りたいという声に合わせて、フォトスポットを意識した家具や展示の配置に変えたりもした。

また美紅の祖母の友人が、お客様に京都の歴史や展示物について詳しく話をしてくれるのもありがたかった。

エレナも、電話が繋がる時には外国人のお客様と直接話して質問に答えてくれる。

手探りながらも、宿は着実により良いものへと進化し続けていた。
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