夢幻の溺愛

そして翌日、起きる時にふわ、と飛行機が離陸する時のようなおかしな感覚に襲われる。

目を開けると見知らぬ天井が目に映り、少し慌てる。



(そうだ、あのお屋敷に泊めてもらったんだった…)



あのあと結局晩ご飯をいただいてからこの部屋に通してもらった。

予想に違わず美しい宮殿風の寝室にある天蓋付きのベットはとても寝心地が良かった。



(あぁ、もう家に戻らないといけないのか…。あの面倒くさい学校にも行かないといけないな…。やだな…まだここにいたい)



起きあがり、ケータイを手にとると、予想と違わず六時半。

もうこの時間に起きるのが半癖のようになりつつある気がする。

はああ、とため息をつき、これまた大きな鏡台の前に座る。



(たしか昨日怜くんが部屋にある物自由に使っていいって言ってたから、ありがたく使わせてもらおう)



櫛を手に取り、髪を()いていく。



(昨日もらったお夕飯…最後に出てきた砂糖菓子がとっても甘くて美味しくて…あれもっと欲しかったな…)



そんな事を考えながら身仕度をしていく。

ちょうど制服を着終えた時に、コンコンとノックの音が響いた。



「入っていいか?」

「あっ…うん!」



急いで答えると、ガチャッとドアノブが音を立てて回り、煌くんが姿を見せる。



「朝飯の用意ができたぞ。ついてこい」



昨日と同じように煌くんと横並びで廊下を歩いていく。



(それにしても、ここすっごく廊下多いし長い!わたしだったらすぐ迷いそう⋯。)

「苑は、パンと白米どっちが好きだ」

「…!あっ、パン、の方が好き、だよ!」



考えていた途中で話しかけられ、挙動不審な態度をとってしまう。



「わかった。昨日のタ飯に開きそびれてな。とりあえずどっちも作っておいた」

「え、そうなの…!ごめんね…」

「いや、いいんだ⋯。あと」



そこで煌くんはふいに立ち止まってわたしの顔を覗き見た。



「あの、晩飯の後に出した――砂糖菓子は、どうだった」



あれ、煌くんなんで今わざわざ立ち止まったんだろう…



「とっても甘くて、今までで一番くらいにおいしいお菓子だったよ!」



微笑みながらそう言うと、煌くんは少し顔を背け、俯いた。



「そうか...それは…良かった」



そう言う彼の顔が曇って見えたのは、わたしの気のせいだっただろうか。

次の瞬間には、顔を上げて何事もなかったかのように歩き出した煌くんに置いて行かれないようにすることに気をとられていた。
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