幼なじみがフラグ回収に来ました
5章
ママがアメリカへ行ってから始まったライマくんとの共同生活は、思った以上に心強かった。
家事は半分担当してくれるし、買い物も一緒に行けば必ず荷物を持ってくれる。
「こんなに共同生活が楽しいなんて思わなかったな」
家に1人ではないこと、いつも話し相手がいて、寝るまで一緒にゲームもできる。課題も一緒にできる。
嬉しくてそう言ったのに、ライマくんには「同棲って言ってよ」と落ち込まれてしまった。
「ぼくは新婚さんごっこみたいで、毎日めちゃくちゃ興奮してるよ」
そう言ったライマくんは、今度はいい笑顔で笑った。その笑顔がちょっと怖くて、私は発言に気をつけようと後悔した。
でも私たち、お付き合いしているわけじゃないんですからね。
相変わらず学校では、ライマくんは噂の的だ。マユちゃんの話では一部の女子がファンクラブを結成したらしい。お昼休み、マユちゃんとお弁当を食べていると教えてくれた。
「ファンクラブが何か言ってきたらすぐに教えてね! 先輩だろうがなんだろうが、五十嵐くんの好きな人はリオなんだから。うちの推しカプはうちが守る」
マユちゃんは拳を握りしめた。
「推しカプって……。でもありがとう。マユちゃんがいてくれてよかった」
私が答えると、任せなさいと胸を張るマユちゃん。マユちゃんのその仕草が好きだ。可愛いのに優しくて強くて憧れる。クラスのみんなと仲良くできる人ってすごいなと思う。
「でもリオは五十嵐くんのこと、本当になんとも思ってないの?」
「なんとも思ってないわけじゃないんだけど……」
恋愛感情があるのかといえば、それはわからないのだ。あの見た目のライマくんを目の前にしてドキドキしてしまうのは仕方がない事だろうし。全女子がドキドキしてしまう、はず。それに加えてハグとか手を繋ぐとかのボディタッチが多すぎるのもいけないと思うんだよね。
私はライマくん以外の男の子と親密な関係になった試しがないから、これがライマくんだからなのかそうでないのかの判断がつかないのだ。
結婚を迫られている身だけれど。
確かに結婚の約束はしたれど、私だってやっぱり好きな人と結ばれたいと人並みに思うわけで。
「たぶん近くにいすぎて見えない的なやつね」
マユちゃんがご馳走様ですと両手を合わせる。それはお弁当に対してなのかどうなのか怪しいところだ。
「次は数学かぁ。うち今日当たりそうだな」
空になったお弁当箱を片付けて、私も机の中から筆箱を出そうと手を入れる。出した筆箱は私のものではなかった。
「あれ、これ誰のだろう。前の授業でこの机使った人かな」
前の授業は選択授業で私も隣の教室にいたけれど、今まで忘れ物は無かった。この席に誰が座っていたのかもわからないし。
マユちゃんが「あれ、それもしかして3組のタケダのじゃない?」と覗き込む。
「たしかこの席だった気がする。一緒に届けに行こう」
ありがたい申し出に早速3組の教室へと向かった。
私たちは5組だからすぐそこなのだけれど、6組の心春のところへ行くか、移動教室で4組に行く事しかない私はドキドキである。
「タケダは男子テニス部でね、男女合同で練習もやってるんだよ」
マユちゃんはタケダ君なる人のことを教えてくれた。部活にも委員会にも入っていない私にとって、他クラスの人との交流は皆無だ。
「顔くらい見たことあるんじゃない? タケダいるー?」
3組に着くと、教室のドアの前から大きな声でタケダ君を呼ぶ。
その行動に私は内心、ひぇーっと悲鳴をあげてしまった。肩くらいはびっくりして強張って見えたかもしれない。
「はいよ、大木どした?」
窓際で喋っていた男子がこちらへやってくる。日焼けしている肌に、長めの髪にちょっと色の落ちた毛先。ちょっと見た目がチャラそうで私はさらにビビる。顔に見覚えはなかった。これだけチャラそうな人ならきっと覚えているはずだよね……?
「これ、タケダの? さっき移動教室で忘れてない?」
マユちゃんがポンとタケダ君に手渡しすると、タケダ君は中身を確認した。
「そうそう、俺んだ! 全然気づかなかったや。さんきゅー」
「お礼はリオに言って。この子の席にあったから」
「リオさん! あざっす!」
タケダ君は眩しい笑顔でお礼を言ってくれた。めちゃめちゃ体育会系のキラキラ男子だ……と私は目を細める。毛先明るいけど。
「いいえ。次の授業に間に合ってよかった」
ライマくん以外の男の子と喋るのは久しぶりで緊張してしまう。ドキドキしながら返事をした。
「あれ。リオさんって、あの転校生の好きな人って噂の?」
タケダ君が私の顔をまじまじと見る。ライマくん以外にそんな風に見られたことがないからドギマギしてしまう。しかも、顔を見ただけでそんな認識されているとは思わなかった。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。もう校内でライマくんと一緒に出歩くのはやめようと心に誓う。
「そう。五十嵐くんの想い人の幼なじみよ」
ドヤ、とマユちゃんが私の代わりに答えてくれた。
「私そんな認識なんですか……?」
私が慌てて言うと、タケダ君は何が面白かったのかアハハと笑った。
「敬語ー! リオさんおもしれー!」
いや、何が面白いのかさっぱりである。
「俺もリオって呼んでいい? 大木の友だちなら俺もめっちゃ仲良くなりたい」
パリピはお強い……!
けれど、私にとっても友だちができるのは自分の世界が広がるから嬉しい申し出だ。
「私でよかったら」
マユちゃんの方を見ると、にこにこしていた。マユちゃんも私の友だちが増えるのを喜んでくれているのだと感じて私もにこっと微笑む。
それからタケダ君は廊下ですれ違う時や私の姿を見かけた時に挨拶してくれるようになった。
移動教室で私の机を使う時には、机の上にひと言メッセージが書かれるようになった。
『ねみー』とか、『もうすぐ大会』とかそんなメモみたいなメッセージだ。
友だちとそんなやりとりをするのがとても楽しくて、私はタケダ君の書いたひと言メッセージはそのまま残しておくことにした。
ライマくんはそれが面白くなかったようだ。
夕飯後、ゲームをやろうと誘ったら神妙な面持ちで、聞きたいことがあるんだけど、と話し始めた。
これは大事な話なのだろうと、私も居住まいを正す。
「最近りおちゃんにまとわりついてる男はなに」
最初、誰のことだかわからなくてきょとんとしてしまった。
「名前も呼び捨てだし、りおちゃんはぼくの恋人だってあれだけ広まっていれば知ってるはずなのに。ちょっと図々しすぎると思うんだけど」
私に話しかける男の子といえば、ライマくんのおかげでクラスの男子は私を遠巻きにするのでタケダ君しかいないのだ。それに思い至り、「タケダ君のこと?」と返事をする。
「そう、その男」
ライマくんは名前を呼ぶのも嫌なようだ。クラスの人のことはちゃんと呼ぶのに。
「友だちだよ。友だちだから挨拶くらいするよ。呼び捨てなのは、マユちゃんと同じ部活だから仲が良くて。マユちゃんが私のことをリオって呼ぶから同じように呼んでるだけだよ」
なぜそんなことを気にするのだろうと首を傾げる。
「りおちゃんはぼくの恋人なんだよ。なのにりおちゃんのこと構うだなんて、身の程知らずだよね」
ライマ君は怖いことを言い始めた。
待って待って。
「だから、友だちだってば。それにライマくんと私はお付き合いしてるわけじゃないでしょう」
せっかく友だちになってくれたタケダ君に何かされては困る。せっかく友だちになれたのに。大事なことなので2回言うけど。
私の発言に、ライマくんは怒ったようだった。小さい頃からあまり怒ったところを見た記憶がなかったけれど、明らかに部屋の気温が下がったのがわかった。
瞳の色が揺らぎ始める。
それを見て、あぁ、眼の色が変わるんだな、と私はどこか遠くでそんなことを考えていた。
怖いもの見たさで、また赤い瞳が見たいと思ってしまった。しかしそれはすぐに後悔に変わる。発言に気をつけなければと反省したのに、またやってしまった。
「りおちゃん。ぼくはこの世で一番りおちゃんが大切で、もう絶対にそばから離れたくないんだよ。なのに、学校では別々に行動しないといけないって言うし。そしたら悪い虫がついた。りおちゃんの気持ちを一番優先したいと思って我慢してきたけど、ちょっとその男に気を許しすぎだよ。りおちゃんはぼくのりおちゃんなのに」
ライマくんが言ってくれたこの世で一番大切だという言葉が心に沁みてきた。純粋に、嬉しい気持ちが溢れてきた。
「あ、ありがとう」
嬉しい気持ちを感謝で示すと、ライマくんはパッと笑顔になった。わかればいいんだ、とでも言いたげな顔だった。瞳の揺らぎはもう無かった。
「それで、いつ結婚する?」
「結婚は、まだ考えられない……それに結婚よりお付き合いが先なんじゃないかな」
苦しい言い訳だ。
「じゃぁ付き合えばいいんじゃないかな?」
「えっと、それは……」
一緒に住んでいるとはいえ、この話題は素直に話せなくなる。心拍数があがってしまい、ライマくんには照れているとバレている気がする。ごにょごにょと濁すと、「まぁいいけどね、すぐその気にさせるから」とニコニコしながら強気の発言をいただいてしまった。
ううっと話題に詰まると、ライマくんは「でも」と眉間に皺を寄せる。
「あの男とはもう話したりしないでね」
話が最初に戻ってしまった。
「でも、友だちだからそんなことできないよ。挨拶くらいはするよ」
私も譲歩したつもりだった。でも彼氏でもないライマくんにそこまで友だちとの交流の制限をされる理由はない。その理由が欲しいから付き合いたいのかもしれないけれど……。私だって友だちと話くらいしたい。タケダ君は今まであまり仲良くしたことのないタイプだし、新しい友だちなんだし。
「りおちゃんわかってよ」
「わかんないよ。友だち付き合いまでライマくんにとやかく言われないといけないなんて」
さっきは失敗したって後悔したのに、でもやっぱり友だちのことは口出しされたくなかった。つい強い口調で言ってしまった。
「だからぼくのりおちゃんに近づいてほしくないんだよ!」
ライマくんもいつもの優しい口調から強い口調になっている。
「でも友だちだもん!」
「りおちゃんのわからずや」
「ライマくんの方がわからずや! 私はライマくんのものじゃない!」
売り言葉に買い言葉で言い合ってしまった。
ハッとした時には、ライマくんは泣きそうな顔をしていた。瞳はもちろん揺らいでいる。
子どものケンカと同じだ。けれど私は居た堪れない気持ちになってしまい、自分の部屋へと駆け込んだ。
謝らなければ。でも今は顔を見たくない。
布団に突っ伏して、その日はそのままライマくんと顔を合わせずに寝てしまった。
再会して、初めて喧嘩をしてしまった。
家事は半分担当してくれるし、買い物も一緒に行けば必ず荷物を持ってくれる。
「こんなに共同生活が楽しいなんて思わなかったな」
家に1人ではないこと、いつも話し相手がいて、寝るまで一緒にゲームもできる。課題も一緒にできる。
嬉しくてそう言ったのに、ライマくんには「同棲って言ってよ」と落ち込まれてしまった。
「ぼくは新婚さんごっこみたいで、毎日めちゃくちゃ興奮してるよ」
そう言ったライマくんは、今度はいい笑顔で笑った。その笑顔がちょっと怖くて、私は発言に気をつけようと後悔した。
でも私たち、お付き合いしているわけじゃないんですからね。
相変わらず学校では、ライマくんは噂の的だ。マユちゃんの話では一部の女子がファンクラブを結成したらしい。お昼休み、マユちゃんとお弁当を食べていると教えてくれた。
「ファンクラブが何か言ってきたらすぐに教えてね! 先輩だろうがなんだろうが、五十嵐くんの好きな人はリオなんだから。うちの推しカプはうちが守る」
マユちゃんは拳を握りしめた。
「推しカプって……。でもありがとう。マユちゃんがいてくれてよかった」
私が答えると、任せなさいと胸を張るマユちゃん。マユちゃんのその仕草が好きだ。可愛いのに優しくて強くて憧れる。クラスのみんなと仲良くできる人ってすごいなと思う。
「でもリオは五十嵐くんのこと、本当になんとも思ってないの?」
「なんとも思ってないわけじゃないんだけど……」
恋愛感情があるのかといえば、それはわからないのだ。あの見た目のライマくんを目の前にしてドキドキしてしまうのは仕方がない事だろうし。全女子がドキドキしてしまう、はず。それに加えてハグとか手を繋ぐとかのボディタッチが多すぎるのもいけないと思うんだよね。
私はライマくん以外の男の子と親密な関係になった試しがないから、これがライマくんだからなのかそうでないのかの判断がつかないのだ。
結婚を迫られている身だけれど。
確かに結婚の約束はしたれど、私だってやっぱり好きな人と結ばれたいと人並みに思うわけで。
「たぶん近くにいすぎて見えない的なやつね」
マユちゃんがご馳走様ですと両手を合わせる。それはお弁当に対してなのかどうなのか怪しいところだ。
「次は数学かぁ。うち今日当たりそうだな」
空になったお弁当箱を片付けて、私も机の中から筆箱を出そうと手を入れる。出した筆箱は私のものではなかった。
「あれ、これ誰のだろう。前の授業でこの机使った人かな」
前の授業は選択授業で私も隣の教室にいたけれど、今まで忘れ物は無かった。この席に誰が座っていたのかもわからないし。
マユちゃんが「あれ、それもしかして3組のタケダのじゃない?」と覗き込む。
「たしかこの席だった気がする。一緒に届けに行こう」
ありがたい申し出に早速3組の教室へと向かった。
私たちは5組だからすぐそこなのだけれど、6組の心春のところへ行くか、移動教室で4組に行く事しかない私はドキドキである。
「タケダは男子テニス部でね、男女合同で練習もやってるんだよ」
マユちゃんはタケダ君なる人のことを教えてくれた。部活にも委員会にも入っていない私にとって、他クラスの人との交流は皆無だ。
「顔くらい見たことあるんじゃない? タケダいるー?」
3組に着くと、教室のドアの前から大きな声でタケダ君を呼ぶ。
その行動に私は内心、ひぇーっと悲鳴をあげてしまった。肩くらいはびっくりして強張って見えたかもしれない。
「はいよ、大木どした?」
窓際で喋っていた男子がこちらへやってくる。日焼けしている肌に、長めの髪にちょっと色の落ちた毛先。ちょっと見た目がチャラそうで私はさらにビビる。顔に見覚えはなかった。これだけチャラそうな人ならきっと覚えているはずだよね……?
「これ、タケダの? さっき移動教室で忘れてない?」
マユちゃんがポンとタケダ君に手渡しすると、タケダ君は中身を確認した。
「そうそう、俺んだ! 全然気づかなかったや。さんきゅー」
「お礼はリオに言って。この子の席にあったから」
「リオさん! あざっす!」
タケダ君は眩しい笑顔でお礼を言ってくれた。めちゃめちゃ体育会系のキラキラ男子だ……と私は目を細める。毛先明るいけど。
「いいえ。次の授業に間に合ってよかった」
ライマくん以外の男の子と喋るのは久しぶりで緊張してしまう。ドキドキしながら返事をした。
「あれ。リオさんって、あの転校生の好きな人って噂の?」
タケダ君が私の顔をまじまじと見る。ライマくん以外にそんな風に見られたことがないからドギマギしてしまう。しかも、顔を見ただけでそんな認識されているとは思わなかった。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。もう校内でライマくんと一緒に出歩くのはやめようと心に誓う。
「そう。五十嵐くんの想い人の幼なじみよ」
ドヤ、とマユちゃんが私の代わりに答えてくれた。
「私そんな認識なんですか……?」
私が慌てて言うと、タケダ君は何が面白かったのかアハハと笑った。
「敬語ー! リオさんおもしれー!」
いや、何が面白いのかさっぱりである。
「俺もリオって呼んでいい? 大木の友だちなら俺もめっちゃ仲良くなりたい」
パリピはお強い……!
けれど、私にとっても友だちができるのは自分の世界が広がるから嬉しい申し出だ。
「私でよかったら」
マユちゃんの方を見ると、にこにこしていた。マユちゃんも私の友だちが増えるのを喜んでくれているのだと感じて私もにこっと微笑む。
それからタケダ君は廊下ですれ違う時や私の姿を見かけた時に挨拶してくれるようになった。
移動教室で私の机を使う時には、机の上にひと言メッセージが書かれるようになった。
『ねみー』とか、『もうすぐ大会』とかそんなメモみたいなメッセージだ。
友だちとそんなやりとりをするのがとても楽しくて、私はタケダ君の書いたひと言メッセージはそのまま残しておくことにした。
ライマくんはそれが面白くなかったようだ。
夕飯後、ゲームをやろうと誘ったら神妙な面持ちで、聞きたいことがあるんだけど、と話し始めた。
これは大事な話なのだろうと、私も居住まいを正す。
「最近りおちゃんにまとわりついてる男はなに」
最初、誰のことだかわからなくてきょとんとしてしまった。
「名前も呼び捨てだし、りおちゃんはぼくの恋人だってあれだけ広まっていれば知ってるはずなのに。ちょっと図々しすぎると思うんだけど」
私に話しかける男の子といえば、ライマくんのおかげでクラスの男子は私を遠巻きにするのでタケダ君しかいないのだ。それに思い至り、「タケダ君のこと?」と返事をする。
「そう、その男」
ライマくんは名前を呼ぶのも嫌なようだ。クラスの人のことはちゃんと呼ぶのに。
「友だちだよ。友だちだから挨拶くらいするよ。呼び捨てなのは、マユちゃんと同じ部活だから仲が良くて。マユちゃんが私のことをリオって呼ぶから同じように呼んでるだけだよ」
なぜそんなことを気にするのだろうと首を傾げる。
「りおちゃんはぼくの恋人なんだよ。なのにりおちゃんのこと構うだなんて、身の程知らずだよね」
ライマ君は怖いことを言い始めた。
待って待って。
「だから、友だちだってば。それにライマくんと私はお付き合いしてるわけじゃないでしょう」
せっかく友だちになってくれたタケダ君に何かされては困る。せっかく友だちになれたのに。大事なことなので2回言うけど。
私の発言に、ライマくんは怒ったようだった。小さい頃からあまり怒ったところを見た記憶がなかったけれど、明らかに部屋の気温が下がったのがわかった。
瞳の色が揺らぎ始める。
それを見て、あぁ、眼の色が変わるんだな、と私はどこか遠くでそんなことを考えていた。
怖いもの見たさで、また赤い瞳が見たいと思ってしまった。しかしそれはすぐに後悔に変わる。発言に気をつけなければと反省したのに、またやってしまった。
「りおちゃん。ぼくはこの世で一番りおちゃんが大切で、もう絶対にそばから離れたくないんだよ。なのに、学校では別々に行動しないといけないって言うし。そしたら悪い虫がついた。りおちゃんの気持ちを一番優先したいと思って我慢してきたけど、ちょっとその男に気を許しすぎだよ。りおちゃんはぼくのりおちゃんなのに」
ライマくんが言ってくれたこの世で一番大切だという言葉が心に沁みてきた。純粋に、嬉しい気持ちが溢れてきた。
「あ、ありがとう」
嬉しい気持ちを感謝で示すと、ライマくんはパッと笑顔になった。わかればいいんだ、とでも言いたげな顔だった。瞳の揺らぎはもう無かった。
「それで、いつ結婚する?」
「結婚は、まだ考えられない……それに結婚よりお付き合いが先なんじゃないかな」
苦しい言い訳だ。
「じゃぁ付き合えばいいんじゃないかな?」
「えっと、それは……」
一緒に住んでいるとはいえ、この話題は素直に話せなくなる。心拍数があがってしまい、ライマくんには照れているとバレている気がする。ごにょごにょと濁すと、「まぁいいけどね、すぐその気にさせるから」とニコニコしながら強気の発言をいただいてしまった。
ううっと話題に詰まると、ライマくんは「でも」と眉間に皺を寄せる。
「あの男とはもう話したりしないでね」
話が最初に戻ってしまった。
「でも、友だちだからそんなことできないよ。挨拶くらいはするよ」
私も譲歩したつもりだった。でも彼氏でもないライマくんにそこまで友だちとの交流の制限をされる理由はない。その理由が欲しいから付き合いたいのかもしれないけれど……。私だって友だちと話くらいしたい。タケダ君は今まであまり仲良くしたことのないタイプだし、新しい友だちなんだし。
「りおちゃんわかってよ」
「わかんないよ。友だち付き合いまでライマくんにとやかく言われないといけないなんて」
さっきは失敗したって後悔したのに、でもやっぱり友だちのことは口出しされたくなかった。つい強い口調で言ってしまった。
「だからぼくのりおちゃんに近づいてほしくないんだよ!」
ライマくんもいつもの優しい口調から強い口調になっている。
「でも友だちだもん!」
「りおちゃんのわからずや」
「ライマくんの方がわからずや! 私はライマくんのものじゃない!」
売り言葉に買い言葉で言い合ってしまった。
ハッとした時には、ライマくんは泣きそうな顔をしていた。瞳はもちろん揺らいでいる。
子どものケンカと同じだ。けれど私は居た堪れない気持ちになってしまい、自分の部屋へと駆け込んだ。
謝らなければ。でも今は顔を見たくない。
布団に突っ伏して、その日はそのままライマくんと顔を合わせずに寝てしまった。
再会して、初めて喧嘩をしてしまった。