君に僕の好きな花を
私が彼の家に行った時、彼は浮気の真っ最中だった。知らない女の人を家に入れて、キスをしていた。

仕事も恋人も失って、仕方なく私はこの町に戻って来た。憧れたことは何一つ叶わないまま……。

「呆れたでしょ?せっかく横浜に進学したのに、こんな形で戻って来たんだから」

声を震わせながら言う。江戸川くんは「そんなことが……」と言った後、大きく息を吐いた。

「よかったと正直思ってるよ」

「えっ?」

江戸川くんは人の不幸を楽しむようなタイプだったのか。そう思いながら彼に目を向けると、江戸川くんは顔を真っ赤にしていた。

「彼氏と別れたってことは、佐倉さんは今誰とも付き合ってないってことでしょ?」

「う、うん……。ていうか、恋人よりも先に仕事を見つけないと……」

「な、なら!……う、うちで働かない?」

「えっ!?」

突然舞い込んだ仕事の誘いに戸惑う。江戸川くんはたくさんある花の中から、ある花を一輪手に取った。赤いアネモネだ。
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