君に僕の好きな花を
「ありがとう」

気が付いたらお礼を言って受け取っていた。本なんて読書感想文を書く時しか読まないくせに、栞を持っていた。

「……ありがとう!」

そう言って男子は笑った。その目は潤んでいて、どうしてこんなことで泣きそうになっているのかわからなかった。でも何故か、その顔を見て私は幸せになっていた。

その男子の名前はーーー。



「ーーー次は終点××〜!××〜!」

電車内に鳴り響いたアナウンスに、一瞬にして目が覚める。周りを見ればもうみんな降りる準備をしているところで、私もキャリーケースを手にする。

佐倉三葉(さくらみつは)、二十八歳。横浜でずっと働いていた私は今日、地元であるこの町に戻って来た。

駅を降りれば目の前に広がっているのは山。この町はよく言えばのどか。悪く言えば何もない田舎だ。

キャリーケースを引き、歩き出す。地元に帰って来たのは成人式の時以来だ。仕事が忙しい+面倒くさいという理由でお盆や年末年始に帰省することもなかった。
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