なぜか御曹司にロックオンされて、毎日ドキドキと幸せが止まりません!
「……うーん。でも、きらりとは今日出逢って、今日結婚を決めたんだろう?」
 父は首を傾げ、険しい顔をさらに険しくさせた。
 その様子をまるで計算のうちだと言わんばかりに、神永さんはうんうんと頷きながら傾聴する。
 それから最後まで聴いたあと、堂々たる態度で喋り出す。


「戸惑うお気持ちは重々承知です。しかし昨今、交際ゼロ日婚というものはそうめずらしいものではありません」
 さすが神永コンツェルンの次期跡取りだ。
 物怖じしないどころか、そのカリスマ性のあるスピーチのような物言いに、私を含め、紅月家一同あっという間に虜にさせられる。

「それよりも大事なことは、僕がきらりさんに一目惚れしてしまい、生涯かけて大切にしたいという事実のみだと思っています」

「えっ! 一目惚れ?」
 神永さんの独白に、私は驚愕の声を上げた。
 途端、私と神永さん二人へ交互に家族の視線が集中する。

 えっ?

 神永さんが、平凡な私に一目惚れ……?

 あの短時間で!?

 やっぱりこの結婚は、どう考えてもありえないよ。


「そうですよ。僕の一目惚れです」
 近い将来、世界を背負って立つような若き次代社長が、頭おかしなことを発言している。

「……」
 しばし私の思考は硬直した。
 正座をしていた膝あたりのワンピースの生地を私はぎゅっと握り、とりあえずなによりも疑問に感じていることを素直に口に出す。

「あの、やっぱり私はこの結婚に不安があるのですが……」

「ええっ?」
 心外そうに神永さんが声を上げる。

「冷静に考えて、出逢って五分もしないうちに求婚されたのだってあやしいのに、さらに一目惚れだなんて、どう考えてもありえなくないですか?」
 すると神永さんが、隣へ座る私へ開き直った。
 そして、ずいっと上半身ごと顔を近づけてくる。
 
 彼はその辺のモデルよりも顔も小さいし、パーツは均等だし、とにかく総じて整った美貌の持ち主だ。
 美しすぎることを「美の暴力」なんていう言葉があるが、まさに神永さんはそれ。

 品のいい匂いとともに、至近距離で「美の暴力」の魅力を浴びてしまった私は、それだけでひどく狼狽えてしまう。


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