なぜか御曹司にロックオンされて、毎日ドキドキと幸せが止まりません!

毎日ドキドキ生活がスタート!

 挽きたてのビターな豆の香りと、トーストの芳ばしい香り。それからトマトベースの食欲をそそる香りの三重奏が、まどろみのなかの私を誘う。

 けれど、フカフカのベッドの心地よさが、まだ私を眠りの世界へ縫い留めようとしていた。

 いい寝具は眠りの質が違うと聞いたことがあるけれど、この一週間私はその言葉の意味を嫌というほど、身を持って体験している。

 今、この瞬間がまさにそれだ。

 と、コンコンと控えめな扉のノックが二回。

「おはようございます、きらりさん」
 いまだにこちらは聴きなれない低く甘い神永さんの声だ。

 紅月家一同に公開キスを惜しげもなく披露してから早一週間。
 私は都内某所、高級住宅地の一角にある神永さんのプライベートマンションの最上階で、共同生活をはじめていた。

 同棲生活……ではなく、あくまで共同生活だと呼ぶのは、私たっての希望でパーソナル空間を分けてもらっているからだ。

 身内の前で気まずいキスを交わした後、どさくさに紛れて神永さんは自分の所有するマンションで、私と一緒に暮らすことをその場で決定させた。

 混乱の最中を上手に使った、まさにやり手ビジネスマン的手法で自身のテリトリーに私を囲い込んだのだ。

 私を囲ったところで誰得もないはずなのに。

 しかも、あろうことか……。

「きらりさん、今すぐ返事をしてくださらないと、僕は心配になって先日のように……」

「起きてます! 私、起きてます!」
 扉の向こう、気遣わしげな神永さんの声にかぶせるように、もこものピンクのルームウェア姿の私はぱっとベッドから飛び起きながら、寝起きで少し掠れた声を張り上げた。

「大丈夫、ですか?」
 柔らかい声が怪訝そうに問いかけてくる。
 無理もない。

「だ、大丈夫です! すぐに支度してリビングへ伺います!」
 どうしたって私が緊張したもの言いになってしまうのは、同居生活二日目の朝にとんでもない事件が起きてしまったからだ。

 いや、あれはどう考えても私が悪かったのだけれど……。




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