なぜか御曹司にロックオンされて、毎日ドキドキと幸せが止まりません!
 環境が変わると寝付けなくなると、聞いたことがある。

 実家にいたときには、朝早くから仕事を始める両親や学校へ行く弟妹のために、まだ辺りが暗いうちから起きて朝ごはんを作るのが、高校生のときからの私の身体に染みついているルーティンだ。

 だというのに、初日から怒涛のハプニングに見舞われた私は、めずらしく平日でしかも会社があるというのに、そのまま朝まで爆睡してしまったようだ。

 いや、正確には「したようだ」ではなく、「してしまった」のである。

 認めたくはないけれど、いわゆる――寝坊、ってやつだ。

 今でもあの朝の出来事を思い出すだけで、私はため息をつきたくなるし、同時に赤面したくなる。
穴があったら入りたいって、このことを言うんだと痛感してしまったのは――。




 仕事へ行くために急いで身支度を整え、私は部屋を出た。
 そう、この「急いで」がポイントである。

 そうでないと、また二日目の朝の二の舞となってしまう可能性がありそうだからだ。


「きらりさん、おはようございます」
 早速、黒のエプロン姿の神永さんが執事よろしく私のもとへ寄ってきて、恭しく手を引く。
 まるで大企業の御曹司兼、社長とは思えないほどの腰の低さだ。

「お、おはようございます」
 きまりの悪さを覚えた私は、神永さんの顔を見られず、俯きながらあいさつする。

「さあ、こちらへどうぞ」
 けれど神永さんはそんな私の態度に文句は言わず、オーシャンビューならぬ、都内が一望できる全面ガラス張りのリビングのモダンなデザインのダイニングテーブルへ案内した。

< 18 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop