なぜか御曹司にロックオンされて、毎日ドキドキと幸せが止まりません!
フリータイムを終え、アナウンスが入り、隣室へ移動して五分間だけ一対一のフィーリングタイムへ突入した。


五分間と言っても、互いに自己紹介をし合っていたら五分なんてあっという間だ。

相手の良いところなど見つける前に次の人へ交替となってしまう。

家庭の危機的状況により参加している私からすれば、どのみち恋愛結婚は望めない。
だから、もはや収入さえあれば、このなかの男性の誰でもいいかもなんて投げやりになっている。
しかしそれでは相手の男性を騙しているようで、やっぱり気が引けてきてしまう。

お見合いだからしたたかに、打算強くサバイバルに勝ち抜く方法が正解なのかもしれないが、なにせ紅月家には借金がある。
そう考えると、積極的にはいけないなぁと腰が引けてしまう。


『はい、それでは男性の方は次のテーブルへ移動してください』
ハイスペックの男性と対面すれば対面するほど、今ひとつ煮えきれない私は、そうして司会の方のアナウンスで次の男性を迎える。


ふわっとセンスのよいウッディ系の香りが、私の鼻腔を誘った。

つられるように俯いていた私は、視線を前に向ける。

わ……すごい。

高そうな素材のスーツ。

今までの人たちも高そうなスーツを着ていたけれど、その人たちとはまったく格が違う。

スーツ自体が着るものへ吸い付くように、ジャストフィットしている。

そしてどこかそのスーツへ既視感を覚えていた私は感嘆しつつ、そのまま自然の流れで視線を上へ滑らせた。

胸元につけられた正方形のネームプレートが、「29」と知らせてくる。

「あ……」
思わず私は声を漏らしていた。

案の定、ネームプレートが「29」の男性――例の神永コンツェルンの御曹司が私の声に反応して、こちらの顔を見つめる。
そして形のいい口角の上がった唇が、私に向かってとびきり爽やかな笑顔とともに話しかけてきた。

「こんにちは」
マイナスイオンって人間からも出るんだっけ。
絶大なるヒーリング効果を放つ御曹司に、私は初めて生身の人間相手に「尊い」という感想を抱いた。

これはたしかに経済界だけでなく、ありとあらゆる場面で彼の虜になってしまう……!

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