ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
桜空は漣と共にタクシーに乗った。
彼は誘拐されたというのにまったく怯えていなかった。桜空は上着で隠したナイフを震えながら握りしめている。
いかがわしいホテルの前で降り、中に入る。
たくさんの部屋の写真が壁に並べられ、その前にはタッチパネルがある。
まごつく桜空に、漣があきれたようにため息をついた。
「一目みればわかるシステムだろうが」
パッとパッと彼は操作する。
「部屋はどこでもいいのか」
思わずうなずいていた。
「移動は……エレベーターか。行くぞ」
先導されて、彼女は慌てて追いかける。
「か、勝手なことしないで!」
言われた彼は、くくっと笑った。
女一人で大の男一人、どうするつもりなのか。
共犯がどこかにいるのか。
漣はそう疑ったが、どうやら実行自体は単独のようだ。
さらに、とんでもなくずさんな計画のようだ。
部屋に入ると女はきょろきょろと中を見回した。
この手のホテルにまったく慣れていないようだ。
なにがしたいんだ。
彼女は変装すらしておらず、防犯カメラを気にする余裕もないようだ。
彼は冷蔵庫から水を取り出し、一口飲んでテーブルに置いた。堅いソファにどかっと座り、彼女を見る。
「このあとはどうするんだ」
「自分のスマホで電話をして、誘拐されたから身代金として1億円を用意しろと言ってください」
「1億だと?」
「だ、ダメなら半分でも」
「ふざけるな。最低でも100億だ」