ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
「100億!?」
 女は驚愕の声を上げた。
「俺を誰だと思っている。八菱家の嫡男、八菱誉匡胤(ほまれまさつぐ)漣だぞ」
「や、八菱漣さんじゃ……」
「それは戸籍上の名だ。1億でも10キロ、100億なら1トンだな。どうやって運ぶ?」
「あの……」
「電話をした時点でお前は捕まる」
 桜空は体をびくっと震わせた。
「いいから早く電話して!」
「やはり楽しませてはくれないものだな」
 彼は女の前に立った。
「う、動かないで!」
 女はナイフをつきつける。
 が、彼は女の腕をひねりあげ、あっさりナイフをとりあげた。
「知ってるか? 日本の身代金目的の誘拐の成功率は0%だそうだ」
 ナイフを突きつけ、彼は嘲笑を浮かべる。
 女は身をひるがえして出口に向かう。が、ドアはロックされていて開かない。がちゃがちゃと音だけが響く。
 ゆったり歩いて追いついた漣が、再びナイフをつきつける。
「命が惜しければ本当のことを言え」
 彼女の顔は青ざめていた。がくがくと震え、涙をこぼす。
「……殺してください」
 彼女はがくりと膝をつき、祈るように手を合わせた。
「どうか殺してください」
「もう終わりか」
 彼は鼻白んで息をついた。
 ナイフを放り投げ、彼女を抱き上げる。
「え!?」
 驚く彼女をベッドに放り投げる。
「なら、こっちで俺を楽しませてくれるのか?」
 女は目を真ん丸にして彼を見て、次の瞬間には逃げようと体をよじった。
 が、漣はすかさず彼女を押さえつける。
「どういうホテルか、わかってるだろう? 連れ込んだのはお前だ。これは同意の上だ」
「やめてください!」
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