ガラスのピアノは涙にきらめく ~御曹司を誘拐したら冷たく溺愛されました~
 彼女はもがく。
「ごめんなさい、そんなつもりはなかったんです!」
 女は涙を流しながら懇願する。
「今さらやめろと?」
 くくっと喉を鳴らして笑い、彼女の首に唇をつける。
 女の体がびくっと跳ねた。
「本当のことを言え。言わなければどうなるか、わかるな?」
 彼の舌が首を撫でると、彼女はのけぞった。
「わかりました、わかりましたから!」
 女は涙で声をにじませた。
「名前は」
「群咲桜空です」
「目的は金か?」
「借金があって、命令を聞かないと家族が殺されるんです。仕事もクビになって、こうするしかなかったんです」
 押さえつけられたまま、女は言った。
 彼は眉根を寄せた。
 いまどき悪質な金融でも殺すということはまずない。金にならないからだ。それくらいならこの女を風俗にでも売るだろう。
「なんの借金だ」
「父の会社がうまくいってなくて」
「お前名義の借金か?」
「違います」
「父親はこれを知っているのか?」
「知らないと思います。知ってたら私を止めたと思います」
「誘拐を手引きしたやつがいるな。誰だ」
「電話だったのでわかりません。誘拐が成功したら借金はチャラだって言われて……毎日、家族を殺すぞって脅されて怖くて」
「バカが」
 理解できなかった。脅迫なら警察に行けばいいものを、なぜ犯人の思うままに動くのか。
「自首します」
 うっうっと嗚咽を漏らしながら、彼女は言った。
「俺はいつでも反撃できていた。それをしなかった意味を考えろ」
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