甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。




「犬丸の地毛って、ちょっと茶色いんだな」


「そ、そうなの!一条くんは…」


「俺は染めてる」



くるくる指に絡ませるように髪の毛が触られる。


言うなれば総長とオタク。

こんなことをしていい組み合わせでは、ない。



「いぬまる、俺にくれる?」


「な、なに……を?あっ、牛タン、今日いっぱい一条くんにあげたよ!」


「そーじゃなくて。いぬまる、くれる?」


「……ルキくんはちょっと譲りたくない、す…」


「そいつのことはせめて今は忘れろ」



ひええっ!

犬丸、ここまで低い声を聞いたことありませんで。



「さすがにそろそろ俺のこと意識して欲しいんだよ」


「い、いしき…」


「そ。俺は犬丸に惚れてる、ただひとりの男でしかねーってこと」



………なんだ、この雰囲気。

オタクが体験していい雰囲気じゃない。
オタクごときが味わうべき雰囲気ではない。



< 112 / 223 >

この作品をシェア

pagetop