甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
「犬丸の地毛って、ちょっと茶色いんだな」
「そ、そうなの!一条くんは…」
「俺は染めてる」
くるくる指に絡ませるように髪の毛が触られる。
言うなれば総長とオタク。
こんなことをしていい組み合わせでは、ない。
「いぬまる、俺にくれる?」
「な、なに……を?あっ、牛タン、今日いっぱい一条くんにあげたよ!」
「そーじゃなくて。いぬまる、くれる?」
「……ルキくんはちょっと譲りたくない、す…」
「そいつのことはせめて今は忘れろ」
ひええっ!
犬丸、ここまで低い声を聞いたことありませんで。
「さすがにそろそろ俺のこと意識して欲しいんだよ」
「い、いしき…」
「そ。俺は犬丸に惚れてる、ただひとりの男でしかねーってこと」
………なんだ、この雰囲気。
オタクが体験していい雰囲気じゃない。
オタクごときが味わうべき雰囲気ではない。