甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
「一条くん前に言ってたでしょっ?風船で思いつく何かって…!あったよ…!それっ、犬丸が7歳の頃だった!!」
小さな頃の思い出なんて、たまに思い出して懐かしいなってなるくらい。
そのあとまたふわって消えて、またいつか思い出しての繰り返しが記憶だ。
でも、これだけは。
ありふれたひとつの思い出なだけなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。
もうぜったい忘れないぞって思わせてくるんだろう。
「いぬまる」
いちばん甘く、優しく、私の名前を呼んだ一条くんは。
その日の夜、私が眠るまで髪を撫でたり頬を撫でつづけてくれた。
そのあいだずっと一条くんは涙目で、ぜんぜん違うのに当時の男の子とちょっとだけ似ていて。
また深く記憶に刻み込まれるかのように、あの日の夢を見た犬丸でした───。