甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
『わるい犬丸。今日は予定があって散歩───、……一緒に帰ってやれそうにない』
さん、ぽ……。
前々から思ってたけど一条くん、もしかして犬丸と一緒に帰ることをお散歩だと思ってるの…?
あのワンちゃんがリード繋がれて飼い主さんと歩くやつだよ…?
「だ、大丈夫だよ!犬丸もちょうど本屋さんとか寄って行きたかったから」
こういう話をするとき、決まって会話方法は電話かメールだった。
今日の一条くんは校舎内のどこかから電話をかけてくれて、犬丸は今では慣れたように対応。
そして彼は気がかりなことでもあるかのように、声を低くさせてつづけた。
『犬丸、気をつけろよ。沙蘭も今日はいない』
「了解です!気になっても近道とか行くのやめます!」
『それもそうだけど、…村雨』
あ、そうだ。
あんなにも堂々と公言してきたのだから、犬丸が狙われるのもおかしくない。
今日はまっすぐ家に帰ろう。
いいや、まっすぐ家に帰るんだなんとしてでも。
………って、思っていたのに。