甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
その名前が出ると犬丸の尻尾が揺れる。
ピタリと足を止めた村雨くんにつづけて視線を移してみれば。
そこはオシャレな雑貨屋さん。
店内には一条くんと、とてつもなく大人なオーラを放った若い女性。
ふたりは楽しそうに笑っていた。
「興味なさそうにしながらもちゃっかり経験してんの、相変わらずなことで」
村雨くんの言葉が脳内を駆け巡ってリピートされた。
ちゃっかり経験……、
ちゃっかりけいけん、チャッカリケーケン……。
犬丸以外の女の子にもあんなふうに笑うんだ…、一条くんって。
犬丸ここにいるよ。
ここにいるのに何も気づかない一条くんなんか一条くんじゃない。
「マル子?───…、アイス買ったげる」
気づけば村雨くんに手を引かれていた。
おてて繋いで帰りましょ。
うえっ、うえっと、犬丸の泣き声って可愛くない…。