甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。




その日も親戚の家を飛び出した俺は、たまたまやっていた車の展示会で配られていた紐付きの風船をゲットして気分が良かった。

もちろん展示会なんか興味ないから、そのまま慣れない町の散歩コース。


けど、小さなきっかけで掴んでいた紐を離してしまって。


空に上っていく風船が、ちょうど近くの木に絡まったんだよな。



『……ぼくの風船…』


『あっ!ふーせん!!』


『…!』



そこに現れたのが犬丸だった。

俺はもう無理だとショボくれていたけど、そいつはどうにか取ろうといよいよ木に登りはじめて。



『あぶないよ…!そんなことしたらケガしちゃうよ…!』


『だいじょーぶっ!いぬまるは犬だからっ』


『……いぬまる…』



だとしても、やっぱふつーに考えて無理なんだよな。

あんな小さな身体で、小さな手で登ったところで届きやしない。


それでも必死に取ろうとしてくれるその子が、俺の目には輝いて見えた。



< 76 / 223 >

この作品をシェア

pagetop