甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
『わっ!うわ…あっ!』
『あ…!ちょっ、落ちる…!』
犬丸が乗っていた木が、ペキッと音を立てた。
ある程度の場所にまで登っていたから高さもある。
下から見上げていた俺は、思わず下敷きになるようにして落ちてきたその子を受け止めた。
『………いった……』
『うぁぁぁぁん…っ』
『っ!だ、大丈夫…?どこかぶったの…?』
『どこもぶってないぃぃ…っ』
『……よかった…』
そーだよな。
たぶんそのとき痛かったのは俺。
めちゃくちゃ痛かった。
けど、それ以上に嬉しかったのを覚えてる。
そのあと風船は風に揺られたことで木からも離れてしまい、あっけなく空の先の先へ飛んでいった。
『ああ!ふーせんっ』
『…もういいよ、ありがとう。だからきみの名前を───』
『あこーー?どこにいるのーー?』
『あっ!ママ!』
タタタタッと駆けて行ってしまう女の子。
もっと話していたかったけど、俺としては満足だった。