甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。
ご主人さまの伸びてきた両手が犬丸をテーブル下から抱え出す。
クゥゥーーン……。
いまね、犬丸自身にも聞こえたよ。
屈服する子犬の声が。
「あと犬丸は確かに頭はいつも死守してるけど、背後がまったくガラ空き」
「……なんと…」
「そーいうのも俺が教えてやるから。…ぜんぶぜんぶ」
だめ、だめ。
尻尾を振るんじゃあない犬丸。
パタパタしないの、フリフリもだめ。
むき出していた牙も爪も、今では丸くスッキリと収納済み。
「………さっきのキーホルダー、犬丸にくれるの…?」
「……………」
「でぃ、DVDも……くれる?」
「…このやろ」
「ひぃ…っ」
戦っている。
犬丸のあたまのなか、ルキくんと一条くんが。
やっぱりまだルキくんが爽やかな笑顔で存在してて、しかしそこに「退け」と言って無理やりにも居座ろうとしてくるのが一条くんなのだ。
「…じゃあ、その代わり犬丸は俺にくれよ」
「……犬丸…、今のところ譲れるものはなにもないよ…?」
「あるんだよなー、それが」
「っ…!」