【短】鏡を割ったって、其処に写った自分が消える訳じゃない…
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会社も職種も違う彼とは、友達の紹介で出逢った。
所謂合コンとかではなく、あまり交際などに興味のない私を可哀想だと思ったのか、はたまたただの気紛れか…前者だったらかなり失礼極まりない話だが。
「麻也と話が合いそうな人がいるの!是非とも逢うだけ逢ってみてよ!」
と言われ、逢ったのがきっかけだった。
指定されたお店は華やかなビル群の一角にある、その中でもとても可愛らしいビルの半地下に佇む純喫茶で、とても珈琲が美味しかった記憶がある。
勿論、雰囲気もとても良くて、心地良いクラッシックの音楽と、和気あいあいとお喋りをする年配の方達の、優しさを滲ませるような声に、入店した途端私の緊張はすっかり抜け切っていたくらい。
友達と現れた彼は栗色のくせ毛を上手くセットして、キラキラと弾けた笑顔を見せながら、少し照れたように自己紹介をしてくれた。
「佐々木和哉って言います。えっと…広告会社で営業担当してて…。趣味はフットサルです」
それに対して私は、あまりの彼の緊張ぶりについ笑ってしまい、目を真ん丸くして此方を見つめる彼に、
「ふふ…あ、ごめんなさい。なんだか、お見合いみたいな挨拶だったもので、つい」
「…あー…それも、そうだ、よね。格好悪…。実はめっちゃ緊張してて」
「私も緊張してますよ?これでも」
「……これでも?」
「えぇ、これでも…くすくす」
そんな当たり障りない会話を済ませ、何時の間にか居なくなった友達の存在に少々『やられた感』を感じつつも、少しずつ敬語も解いた。そして、そのままの流れで夕食でもどうか?と誘われ、一瞬如何しようかなと思案していると、ぎゅっと拳を握って私の答えを待っている彼の様子が見えて、私はまた笑ってからイエスと伝えた。
そこから、何度か二人きりで逢う様になり、確か五回目辺りの時だっただろうか。
並んで歩いていた私の手をそっと掴んで、恭しく頭を下げた彼から交際を申し込まれたのだ。
それからは、今まで如何して人との関わり合いをあまり持ちたくないと交際を拒んでいたのか?と思うくらい、彼との関係は良好だった。
だったと思う。
そう、途中までは…。