【短】鏡を割ったって、其処に写った自分が消える訳じゃない…
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「和哉……?私は貴方にとってどんな存在だった?」
「…っ、そんな風に過去形にしないでくれよ」
「ねぇ…私はそんなに、和哉にとって都合が良い女だった?」
「どうしてそんな事…」
「ほら…全部答えにはならない。それが貴方の弱さで…残酷過ぎる優しさよ…」
彼は、無表情のまま紡ぐ私の言葉に、酷く傷付いた顔をする。
「和哉は、真面目だし、優秀なのも分かってる。…でも、それとこれとは別物なの。人の感情はそれじゃあ補えないし、理解する努力にはならない…そうでしょう?」
「…っ、でも、麻也は何時も、」
「そう。何時も私は貴方の中での優先順位が最下位。だから、何をしても良いと勘違いしてしまったのよね…私の名前を呼ぶことさえも忘れてしまう程…」
ぐっ、と口唇を噛む彼の顔色はとても悪い。
きっと、今まで自分のしてきた事を反芻しているのだろう。
それでも、私にはもう如何でも良かった。
「もう、辞めましょう。何度約束を反故されたか、その度にどれだけ私が傷付いたか…和哉には一生分からない。私の気持ちは私にしか…もう、分からないのだから…」
髪を掻き乱して、息を上げて私の後を追って来た彼に、私は一瞥しただけでそう一気に言い捨てた。
破片で傷付けた指先が痛い。
歪んでいるだろう心が痛い。
それでも…彼を好きだと…そう叫んでいた自分が一番痛かった。
「さよなら…和哉」
「麻也っ…、」
そう、最初からそうやって必死になって私を必要としてくれていたら、こんな想いをせずに済んだのに。
きっと、私達は初めからこうなる運命だったのね…。
流れても行かない涙を飲み込んで、代わりに私はそっと溜息を吐いた。
こんな風に、一つの恋愛を終わらすのに相当の気力を使わなければならないのなら…もう、恋なんてしなくても良いかもしれない。
それだけ、本気の恋だった。
彼という呪縛に囚われ、霧の中を彷徨う私は…多分もう、人は愛せない……。
Fin.