捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
それから、入籍や社外への結婚報告はいつがいいかとタイミングを見計らっていた。
しかし社長が彼の第一秘書である林田に「やっと息子が結婚する気になった」と嬉しそうに話していたのを別の社員が聞いており、亮介の結婚の噂は一気に会社中へ広まった。
堅物副社長と呼ばれる御曹司をゲットしたのはどんな女性なのかと憶測が広がるのを、凛は胃が痛くなる思いで聞き流し、会社ではこれまで以上にポーカーフェイスな秘書の仮面を貼り付けた。
結婚後も社内では旧姓を使う予定なので、自分から言わない限り亮介の結婚相手が凛だとバレることはないが、同じ秘書室で働く同僚に黙っているわけにもいかない。どう話せばいいのか悩んでいたところ、亮介が助け舟を出してくれた。
「私事だが、立花と婚約した。入籍や結婚発表の日取りは未定なので、まだ公にしないでもらえるとありがたい。彼女には秘書として今まで通り勤務してもらう。やりにくい思いをさせるかもしれないが、公私混同は一切しない。これまで通り、どうかよろしく頼む」
副社長直々に頭を下げた挨拶に、秘書室の面々は驚きながらも好意的な反応だった。恵梨香も「おめでとう。今度詳しく聞かせなさいね!」と喜んでくれた。
「こんなこと言うのもあれだけど、チーフが近藤さんを選んでくれてよかったね。副社長との結婚の方が、断然幸せになれそうだもの」
恵梨香の辛辣な物言いに苦笑しつつも、孝充と別れて間もない時期の婚約報告を祝福してくれたのは素直に嬉しい。
一時期ピリついた雰囲気だった秘書室は、一転して祝福ムードとなった。