捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
ところが、秘書室に亮介が婚約の挨拶をして数日。凛の表情は晴れない。
芹那は大方の予想通りあれ以降出社していないため平穏が戻ってきたと思いきや、今度は孝充の様子がおかしいのだ。
亮介と結婚するからといって、孝充から受けた裏切りがなかったことになるわけではない。極力仕事以外では関わらずにいたいと思っている凛だが、なぜかここにきてなにかと声を掛けてくるのだ。
新ブランドに関する仕事を手伝うと言ってきたり、副社長と急に結婚なんてなにか裏があるんだろう、相談にのるから仕事おわりに食事に行こうと誘われたり。
同じ秘書室とはいえ重役秘書が扱う情報は口外できないし、新ブランドに関してはまだ情報解禁前だ。手伝ってもらえるような業務はない。それを教えてくれたのは孝充だったのに、一体彼はどうしてしまったというのだろう。
数ヶ月後に控えている創立記念レセプションの運営チームは孝充の管轄なため、彼もまた猫の手を借りたいほど忙しいはずだ。それなのに何度も凛のデスク付近に来ては、無意味に仕事の進捗状況などを聞いてくる。
今も「本当は僕に対する当てつけなんだろう」と重役フロアにある給湯室でしつこく話しかけられ、内心うんざりしていた。