捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「芹那とは本当に魔が差しただけというか……あんな女性だとは思わなかったんだ。きっと結婚も白紙になるはずだ」
「そうだとしても、私には関係ありません」
「関係なくはないだろう。芹那はもう会社に来ないだろうし、僕もやっと君と向き合える。きちんと話をしよう。あの副社長が急に凛を見初めて婚約だなんて……あり得ないじゃないか。きっとなにか裏が――――」
「チーフ、今後私を名前で呼ぶのはやめてください。それから、私と副社長のことはチーフには一切関係ありませんので、これ以上の詮索はやめてください。はっきり申し上げて迷惑です」
凛は毅然とした態度で孝充の話を遮った。
(チーフってこんなに話の通じない人だったかな。近藤さんがいなくなったから私に向き合えるって……どちらに対しても誠意の欠片もない言い草をするなんて)
必死に強がる姿を可愛くないと謗られ、セックスのできない女性は用なしとばかりに裏切られたのだ。今さら孝充と話すことなどない。
彼は凛にとって尊敬していた上司でもあったため、交際中も敬語を崩さなかったし、彼の意見に反論することもなかった。けれど、ここ最近の孝充の態度はとても尊敬するに値しない。
反抗的な態度の凛に、孝充は顔を赤くして睨みつけてきたが、凛はそのまま給湯室をあとにした。