捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
以前亮介に購入してもらったうちの一着に袖を通すと、わいわい騒ぎ立てる双子にお礼を告げ、なんとか部屋から追い出した。亮介との馴れ初めなど、とても家族には話せない。
秘書として半年ほどそばにいるが、交際期間はなく、休日に顔を合わせたことは一度もない。
結婚を承諾してから二回、仕事終わりに食事へ行った。どちらも亮介が凛の母が夜勤ではないかを確認した上でレストランを予約してくれて、普段と立場が逆転しているのに恐縮してしまった。
『プライベートまで頑張らなくていい。こういうことは男に任せておけ』
そう言われ、ぽんと頭を撫でられた。堅物の異名からは程遠い親しげな振る舞いに驚きつつ、このプライベートな亮介を自分が独占しているのだと思うと、胸に甘やかな感情が流れ込んでくる。
連れられたのは二軒とも凛の知らないレストランで、一見では入れないような場所だった。よく会食に同行する凛ですらドギマギしてしまうような上質な空間で食事をして、二十二時前には自宅に送り届けられるという健全なもの。
しかし今日は土曜日で、明日は休み。
ふたりともいい大人で、交際期間はないもののすでに結婚の約束までしているのだ。初めてのデートだろうと、夜はそういったことになるかもしれない。