捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
(下着も一応新しいものにしたし、最低限のトラベルセットも持った……)
バッグの中身をチェックする手が小さく震えている。
亮介と出掛けるのはとても楽しみだし、プライベートな彼をもっと知りたいと思っている。
けれど、その先に進むとなると未経験ゆえに極度の緊張に襲われていた。
(でも、不思議と恐怖は感じない……)
孝充と付き合っていた頃、何度かそういった誘いを受けたことはあったが、彼と深く抱き合いたいという欲求が湧かなかった。どうしても未知の体験への恐怖が大きく、何度も断るうちに誘われなくなった。
けれど亮介とそういう仲になるかもしれないと考えた時、緊張の中に僅かな期待が混じっているのに、自分でも気付いていた。
普段はポーカーフェイスで淡々と仕事をこなす上司は、一体どんな顔をして自分を抱くのだろう。
クールで冷徹な眼差しに滾るような熱情を宿して自分を見下ろす亮介を想像し、ぶわっと顔が熱くなる。
(朝からひとりでなにを考えてるの……!)
慌てて妄想を掻き消し、もう一度鏡に向かって全身をチェックするのだった。