捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
亮介との初めてのデートは車で少し遠出し、隣県で紅葉狩りを楽しんだ。
ちょうど見頃を迎えていて、美しく色づいた山々を眺めながら、ふたりでゆっくりと遊歩道を散策するのはとても心地良い時間だった。昼食はその道中で蕎麦を食べ、展望台からの景色を満喫し、帰りはまた別のコースの遊歩道を歩いた。
「副社長はこちらに来たことはあるのですか?」
「いや。時期的に一緒に紅葉を見たいと思って調べただけで初めて来た。それより呼び方や話し方をなんとかしないか?」
「呼び方、ですか?」
「俺たちは結婚するんだ。プライベートで役職呼びはおかしいだろう。俺も仕事中以外は名前で呼ぶ。君もそうしてくれ。敬語も必要ない」
「そ、そう言われましても……」
突然の要望に戸惑っていると、亮介が懇願するような眼差しを向けてくる。
「凛」
低く甘い声で名前を呼ばれ、自分でも信じられないほどの喜びが身体中を駆け巡った。ドキドキと心臓が高鳴り、自分の名前が特別なものにすら思えてくる。
「ほら。呼んでみろ」
「きゅ、急には無理です……!」
ブンブンと首を横に振る。彼から呼ばれるのにはキュンとしても、自分が呼ぶのは恐れ多いし、なにより改まって呼べと言われても照れてしまう。