捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「はっ、真っ赤だな」
盛大に照れた凛を見て、いつもはポーカーフェイスな亮介が声を上げて笑った。
「ひどいです、からかわないでください」
「からかってない。可愛い婚約者から名前で呼ばれたいだけだ」
「そ……そういうのがからかかってると申し上げているんですっ」
笑顔の亮介につられるようにして、凛も感情をあらわに彼に言い返す。その他愛ないやり取りが新鮮で、けれどとても幸せに感じた。
その後も互いに口数の多い方ではないため常に会話があるわけではないが、無言でも苦にならない空気がふたりの間に流れていた。
孝充とふたりで出かける時は、常になにか話題を探していた気がする。結婚を提案された時に亮介が言っていた『一緒にいて苦痛を感じないのは大きなポイントだ』という言葉の意味がよくわかる。
都心へ戻り、彼が行きつけだという日本料理屋で夕食を食べ、デザートの柿のゼリーに手を付け始めたところで、ついに亮介から尋ねられた。
「このままうちへ連れ帰っても構わないか?」
この時間に自宅へ招かれる意味がわからないわけではない。凛だってそうなる予感がしていたからこそ、こっそり準備をしてきたのだ。