捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

(ついに、来てしまった……)

このあとに待ち構えている出来事を考えると、緊張で倒れてしまいそうだ。男性の部屋に入るのも初めてな凛は、どう振る舞ったらいいのかわからずにただその場に立ち竦んだ。

すると、後ろからそっと包み込むように優しい力加減で抱きしめられ、心臓が口から飛び出してしまいそうなほど驚いた。

「ふっ副社長……?」
「すぐにどうこうするつもりはない。だからそんなに固くならないでくれ。俺にまで緊張が移る」
「も、申し訳ありません。なにぶんこういうことが初めてで、どうしたらいいのかわからず……」

ドキン、ドキンと脈打つ鼓動は、きっと回された彼の腕にも伝わっているだろう。正直に今の気持ちを打ち明けると、背後でグッと喉が鳴り、抱きしめる腕に力が込められた。

「無粋なことを聞くが……君は先月まで原口と付き合っていたんだろう? 長く交際していた彼にも許さなかった身体を、俺に明け渡していいのか」

数日後には十二月を迎えるというのに背中で感じる彼の身体は熱く、自分を求めてくれているのだと思えた。それなのに初めての凛を慮って、こうして確認してくれる優しさが嬉しい。

亮介に求められるのは決して恐怖ではなく、喜びが勝っているのだと伝えたい。

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