捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

「私はリュミエールで働いてるの! まさか同じ業界で働いてるなんてビックリ」
「すごいな、最大手じゃないか。美容部員?」
「ううん、秘書室にいるの」

修平は開発部の研究職に就いていると話してくれた。大学では応用化学科で実験に明け暮れていたが、今も変わらない生活をしていると笑った。

彼の婚約者は美堂の企画部に所属しているらしく、仕事ができないくせに横柄な上司に悩まされているのだとか。

今日も本来なら一緒に修平の実家に寄るつもりだったが、急にその上司が突拍子もない提案をしてきたため、その対応に追われて残業を強いられているらしい。

「そっか、彼女さん大変だね」
「それでも仕事は楽しいみたい。俺とは似た者同士なんだろうね」

彼女のことを愛しげに語る修平は、凛の知っている彼の何倍も素敵な男性に成長している。

子供の頃は五つ年上の彼がとても大きく見えたし、自分よりもずっと大人に感じた。リップをもらった時はドキドキしてうまく話せず、憧れのような感情を抱いていたのだと思う。

けれど大人になった今、こうして向かい合ってふたりでコーヒーを飲んでいても、あの頃のような感情は湧いてこない。純粋に修平の結婚を祝福する気持ちでいっぱいだ。

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