捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
* * *
「副社長に面会をお願いします!」
バタバタと重役フロアに駆け込んできたのは、新ブランド開発チームの山本を筆頭に数人の社員たちだ。
以前プレゼンをしに来た時の自信に満ち溢れた顔つきとはまるで違う、息を切らし、額に汗を滲ませた必死の形相に、秘書室の面々も何事かと一様に手が止まった。
副社長である亮介は打ち合わせや会議などの予定がびっちり組まれているため、本来は数分の面会だろうと事前にアポが必要だ。
そのルールを山本たちが知らないはずがないし、こうしてアポなしでやってきたことなどこれまでに一度もない。よほどのことが起きたのだと、凛はすぐにデスクの内線で亮介に連絡をしようとしたが、騒ぎを聞きつけた彼が副社長室から出てきた。
「何事だ」
「副社長、大変です! やられました! これを……っ!」
山本が持っていたタブレットを差し出す。そこにはニュース記事のようなものが映っていたが、凛の位置からは確認できなかった。
受け取った亮介が目を通しているのを、周囲も固唾をのんで見守っている。