捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「え? それは私のものではありません」
「今君のデスクの引き出しから取ったものだ。……怪しいな。中を確認させてもらう」
孝充が自席に戻り、USBを自分のパソコンに差し込んだ。水を打ったように静まり返るフロアに、孝充の操作するマウスのクリック音だけが響いている。
「……やっぱりか」
孝充は勝ち誇ったような顔をして、周囲に見えるようにパソコンの画面の向きをくるりと変える。
そこに映し出されていたのは新ブランドの商品の原料の仕入先や原価、配合率などの詳しい処方のリストだ。コスメの要となる最重要機密であり、当然ながらUSBにコピーするのは固く禁じられている。
これには凛だけでなく、隣にいた亮介も息をのんだ。
「君は……コンセプトやパッケージデザインだけじゃなく、商品の処方まであいつに渡すつもりだったのか」
孝充の言葉に、重役フロアに集まった多数の人たちの視線が刺さるのを肌で感じる。凛は必死で首を振った。
「そのUSBは私のものではありません」
「そんな言い訳が通用すると思っているのか!」
言い訳と言われても凛のものではないし、誓って情報を外部に漏らしてもいない。