捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
遊びのないスーツに黒髪をひとつに束ねただけの野暮ったいスタイル、化粧品会社の秘書室に勤務しながら薄すぎるメイクを貫き続ける姿は、どこをとっても亮介を狙う女性たちとは違う。
けれどきちんと手入れされた黒髪は艷やかで、肌は白くてハリがあり、なにより名前のごとく凛とした立ち姿は美しく、一瞬で亮介の心を奪っていった。
人のことをとやかく言えないが、凛はポーカーフェイスで仕事中は特に感情を挟まない。
副社長秘書に就任当時は一人前の秘書とは言えなかったが、頼まれた仕事を淡々とこなし、ミスを指摘するときちんと頭を下げ、絶対に同じ過ちは繰り返さない。
日々確実に成長していく凛は頼もしく、亮介はいかに自分が自意識過剰だったかと肩を竦めた。
徐々に仕事に慣れてくると、彼女は亮介がどうしたら仕事をしやすいかと自発的に考えて行動するようになった。
そのため凛は亮介を理解しようと、ずっとこちらの言動を注視している。
彼女は無意識だろうが、あんなふうに熱い眼差しを向けられて平然としていられる男がどれだけいるだろうか。
さらに亮介の心を揺さぶるのが、凛のポーカーフェイスが崩れる瞬間だ。
視察へ同行する際、百貨店などのコスメフロアに足を踏み入れると、目をキラキラと輝かせて周囲を見渡している。