捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「会社のパソコンかどうか検索できるか?」
「はい。情シスのパソコンでならIPアドレスの照会が可能です。すぐに行ってきましょうか?」
「……いや。それよりも、この二件の端末が顧客情報や他の重要なサーバーにアクセスしていないかを確認してくれ」
「わかりました。確認次第ご連絡します。先程フリーアドレスから送られてきたイタズラメールについては、情シスからすぐに削除するよう全社員に通達を出しておきますか?」
「あぁ、頼む」
副社長室を出ていく井戸田を見送った亮介は、ふとデスクに置かれたままのスマホを見つめた。
(凛からの連絡は来ていないか……)
なにも説明をせずに帰してしまったため、今頃心細い思いをしているに違いない。すぐにでも電話をして、初めから凛を疑っていないのだと伝えたい。
凛に想いを馳せると、同時に脳内に焼き付いた例の画像が浮かんでくる。
見知らぬ男の腕の中にすっぽりと収まっている自分の婚約者を見るのは、喉の奥が捩れるような不快感がある。
凛は写真を見て自分だと認めたし、相手を美堂の社員だと言っていた。それに幼なじみだとも。きっとリュミエールのリップをくれたという男に違いない。
彼女は明言しなかったが、彼はきっと初恋相手なのではないだろうか。なぜ一緒にいたのか、十年近く会っていないのではなかったのか。それらを考え出すと、どす黒い感情に思考が占拠されてしまう。
(いや、こうしてあの画像のせいで苛立つのはきっと相手の思うつぼだ)
亮介は頭を振って雑念を追い出すと、凛のパソコンを持って立ち上がった。