捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

「全員揃ってるな。これから言う手順通りに操作して、パソコン画面にIPアドレスを表示させてほしい」

定時である十八時直前、亮介は凛以外の秘書室に籍のある社員を全員集め、静かにそう言った。いつもは社長についている林田も亮介から連絡を受けてその場におり、今回の情報漏洩の事態に表情を険しくさせている。

亮介は新ブランドの情報漏洩について弁護士や情報システム部に相談し、すでにある程度手口を把握できていると淡々と告げた。

「アクセス権限を持つ立花のパソコンを介し、情報を取られたようだ。彼女のパソコンに外部から接続されたログが二件残っていた。遠隔操作ができるように立花のパソコンの設定を弄れるのは秘書室に勤務する者ではないかと思う。疑うようで申し訳ないが、潔白を証明するためにも協力してもらえるとありがたい」

亮介が頭を下げると室内はにわかにざわついたが、すぐに「わかりました」と反応したのが凛と仲のいい恵梨香だった。

すぐに指示に従ってパソコンに向き直ると、恵梨香につられるようにキーボードを打つ音が波のように広がっていく。

亮介はひとりひとりのパソコン画面に表示されたコンマで区切られた数字の羅列を確認していくが、全員分を見終えても凛のパソコンに接続したアドレスはなかった。

「原口、君もだ」

たったひとり、真っ青になった孝充のパソコンを除いて。

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