捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
たった半年ではあるけれど、亮介の秘書として必死に尽くしてきたつもりだ。それなりに信頼を得ていると思っていたのに、他社に情報を流すような人間だと思われているのだろうか。
食事も水分も取らず悶々と何時間も考え込んでいると、玄関からカチャリと解錠音が聞こえた。
ビクッと身体を震わせ、廊下に繋がる扉をじっと見つめていると、珍しく乱雑な足音を立てながら亮介がリビングに入ってきた。
「りょう……」
出迎えようと立ち上がった凛だったが、彼の顔を見た瞬間、色んな感情が溢れ、ぽろりと大粒の涙が零れ落ちた。
名前を呼ぼうとしたが、喉に張り付いて声にならない。目の奥がツンと痛み、視界がじわりと滲んでいく。
(やだ、亮介さんの前で泣くつもりなんてなかったのに……)
車の中でも、ここに着いてからも、かなり長い時間泣いたのだ。もう涙は出し切ったつもりだったのに。
慌てて涙を拭おうとする前に、大股で近付いてきた亮介に抱き竦められた。