捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

* * *

「ここ数日、残業が続いているようだな」

決裁済みの稟議書を受け取り、副社長室から出ようと一礼したところで声がかけられた。

凛の顔色はお世辞にもいいとは言えず、リュミエールの優秀なベースメイクアイテムをもってしても隠しきれていない。

秘書という職業柄、上司の予定によって残業は珍しくないが、ここ数日は雑務に追われているせいで亮介以上に帰りが遅くなることが多い。

亮介主導の新ブランド企画が大詰めを迎えているが、仕事はそれだけではない。

副社長という立場上、決裁しなければならない案件は多数あるし、持ち込まれる稟議書は山のように積まれていく。それを優先順位の高い順に振り分け、亮介の手間を極力減らすのが凛の仕事だ。

さらに先日、取引先の上役の訃報があり、弔電や供花などの手配をしていたため、出張の経費を纏めたり会議の議事録を清書したりといった細々した業務が溜まっていた。

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