捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

重役秘書が手が回らない部分はグループ秘書がフォローするようになっており、その役割は勉強を兼ねて新人が担う。そのため凛は比較的簡単な仕事を芹那に頼んでいたが、彼女は驚くほど仕事をしてくれないのだ。

「近藤さん。二日前に頼んだ他店の先月の売上まとめの資料、どのフォルダに入れましたか?」
「なんのことですかぁ? そんなの頼まれた覚えありませんけど」

確かに頼んだはずの仕事を知らないとシラを切られ、業務が滞る。そんなことが日常茶飯事になってくると、凛は証拠を残すため、芹那になにか仕事を依頼する際には社内メールに履歴を残すようになったが「やり方がわからなかったんで、まだやってないです」と悪びれなく言われ、もう自分でやった方が早いと諦めの境地だ。

元々仕事に対して熱意のなかった芹那だが、凛の絡んでいる仕事をすべて拒絶しているため、残業せざるを得ない。

なぜ恋人を寝取られた側の自分が退職を迫られたり、こんな幼稚な嫌がらせを受けなくてはならないのかと憤る気持ちはあるが、文句を言っていても仕事は溜まっていくし、これは秘書室内の問題なので副社長である亮介に言うべきことではないと口をつぐんだ。

「私の至らなさ故です。申し訳ありません」

亮介はなにか言いたそうな顔をしたものの、追及することなく話題を変えた。

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