捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

それに返信しながら急いでエントランスから出ると、ほんの二十分前に会社を出たはずの亮介がこちらに歩いてくるところだった。

「立花。今帰りか」
「はい。副社長はどうして……これから会食では?」
「あぁ、ちょっと忘れ物を取りに」
「ご連絡いただければ私が持って伺いましたのに」
「いや、残業せずに帰るよう指示したのに、忘れ物をしたから持ってこいなんて言えないだろう」

バツが悪そうに苦笑する亮介に、凛もクスっと笑う。

これまでは事務的なやり取りしかしてこなかったが、廊下で修羅場を見られて以降、業務外ではこうしてポーカーフェイスを崩して会話をするようになった。

感情を表に出さないように努めていたが、亮介につられて笑みが零れる回数が増えた気がする。

秘書としてはあまりよくない気がしたが、亮介がそれを咎める様子はなく、むしろ彼の方から話しかけられる機会が増えていて、戸惑いつつもそれが嫌ではないことに気付いていた。

「そういう顔を、もっと俺だけに見せてほしい」
「え……」
「不貞を働いた男のことなどさっさと忘れて、早く俺に落ちてくればいい」

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