捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
真顔で言われ、凛は言葉を失った。
これはきっと、互いにメリットのある結婚についての返事を急かされているだけ。口説かれているわけじゃない。
そうわかっているのに、身体中の血が顔に集まってくるのを止められない。
「……あの、えっと」
どう返せばいいかわからずにいると。
「凛!」
オフィス街には不釣り合いな大声で名前を呼ばれ、凛は弾かれたように振り返る。
「大志?」
「おっせーよ。せっかく向こうが時間空けてくれたんだから、絶対遅刻とかしたくないんだけど」
「ご、ごめん、わかってる。もう行くからちょっと待って」
腕時計を見ると、確かにこれから美容室のある駅まで地下鉄で向かうのにギリギリの時間。
再度亮介に向き直ってその場を離れようとした凛の耳に届いたのは、地を這うような低い声だった。