捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

「……彼は?」
「あ、あの……会社の前で騒ぎ立てまして、申し訳ございません。すぐに移動しますので」
「あいつと待ち合わせだったのか」

聞いたことのない不機嫌な声に思わずびくっと身体を竦める。そんな凛を見て、亮介の顔が苦しげに歪む。

なぜそんな顔をさせてしまっているのかわからず、凛は早口で説明した。

「弟とはもう少し先の地下鉄の駅で待ち合わせだったのですが、私が遅かったので迎えにきてくれたみたいで」
「……弟?」
「もちろん今日中にしなくてはならない業務はすべて終わらせております。あの、頂いた服を着て出社したら、色んな方から褒めてもらえて……化粧品会社の秘書として恥ずかしくないように、その、もっと似合うようになりたくて、オシャレ好きな弟に美容室を紹介してもらおうと思いまして」

焦っているせいで言わなくてもいいことまで言っている気がしたが、一気に捲し立てた。

すると目の前の亮介が大きな手で目元を覆い隠し、はあーっと大きく吐いた。

「あっあの……」

一体なにが上司を呆れさせてしまったのだろう。初めて亮介の秘書に抜擢された時でさえも、ここまで彼に大きなため息を吐かせたことはなかったはずだ。

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