捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
焦りと困惑で身動きが取れないでいると、亮介が顔を覆っている手と反対の手を凛に向けてきた。
「すまない、気にしないで忘れてくれ。立花にはなにも非はない。自分の情けなさを嘆いているだけだ」
「情けない、ですか……?」
「君が男と待ち合わせしていると知って、頭に血が上った」
その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。
(そ、それって……)
まるで嫉妬しているかのようなセリフに、凛の鼓動は大きく跳ね上がった。
「悪い、急いでいるんだよな。行ってくれ。俺ももう行く」
「は、はい。お時間を取らせて申し訳ございません。お先に失礼いたします」
勘違いで真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、凛は額が膝につくほど勢いよくお辞儀をすると、そそくさと大志の腕を引っ張ってその場を離れた。
「なぁ、あの恐ろしく美形な男、誰?」
一部始終を見ていた大志に尋ねられ、凛は平静を装って答える。