捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「髪、染めたのか。その服にもよく似合ってるな」
「ありがとうございます」
いつもは清潔感を重視して簡単なひとつ縛りしかしていなかったのを、美容師に教えてもらったようにスタイリング剤を揉み込み、トップに高さを出して結んでみると、驚くほど印象が変わった。
シルエットが綺麗な開襟シャツとアンクル丈のパンツというコーディネートに、今日は亮介と会社を出て百貨店やドラッグストアなどへ視察があるため、歩きやすいようにヒールは低いが秋らしいワインレッドのパンプスを合わせている。
亮介に褒められ、鏡の前であれこれと迷った甲斐があったと嬉しくなった。まるで初めて恋をした学生のようで気恥ずかしいが、喜びに胸があたたかくなるのを感じる。
「よし、じゃあ行くか」
「はい」
すぐに仕事モードに切り替えた亮介に続き、凛も完璧に秘書の仮面をつけて後を追う。
彼は営業やマーケティングから提出された数字も隈なく把握しているが、実際に自分の目で現場を見るのを好む。流行や売れ筋などは現場の声を聞くのが一番だというのが彼の信条らしい。
仕事へ熱意を傾ける亮介を支えたいと感じたのは、彼の秘書になって間もない頃だ。慣れない業務に四苦八苦しながらも、彼を支えることでリュミエールの素晴らしいコスメを生み出す手伝いをしているのだと思うと、自然と仕事への誇りも持てた。