捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「高校受験に合格したお祝いに、リュミエールのリップを貰ったんです。これまで自分で薬局で買っていたスティックタイプじゃなくてジャータイプのリップバームで、とにかくパッケージが可愛くて。使ってみるとほんのり唇がピンクに色づいて、顔全体が明るく見えるような気がしました。私って女の子なんだなって思わせてくれる、キラキラした魔法みたいなコスメが大好きになって、私もそれを作り出すお手伝いがしたいと思ったんです」
見かけだけでなく、保湿された唇はプルプルになり、実用性も抜群だった。今はもうそのデザインは廃盤になっているが、同じ処方のリップは健在だ。
当時を思い出しながらリュミエールに入社したきっかけを話すと、亮介も興味深そうに聞いてくれる。
「ジャータイプのリップバームか。十年くらい前に爆発的に流行ったな。確か蓋には誕生月ごとに色の違うガラス石を使ったやつだったか」
「そうです、そのリップです!」
自社の商品だから当然かもしれないが、思い出のリップをわかってくれたのが嬉しくなって、ついテンションが上ってしまった。
「たくさんの女性に混じってわざわざ店頭で買ってくれたのかなと思うと、申し訳ない気もしましたけど嬉しかったです」
「……プレゼントしてくれたのは男か?」
「はい、近所に住んでいた五つ年上のお兄ちゃんです」
中学三年生の頃、受験合格を祝ってリップをくれた阿部修平は凛の実家の近くに住む大学生で、小学生の頃はよく公園で一緒に遊んでもらっていた。